午後七時、青い列車は「がたん」とひとつ音を立てて、定刻どおりに出発した。

幼い頃から憧れ続けた列車だった。でも、旅行など滅多にしない我が家では、それに乗ることは叶わぬ夢だった。

客車寝台の寝心地は、お世辞にも良いとはいえなかった。停車駅に到着するたびに車体は大きな衝撃を受けるし、線路の継ぎ目、ポイントを通過するとき、鉄橋を渡るとき、車体は揺れ、大きな音をたてる。しかし、枕の底から聞こえてくるそれらの鉄道特有の音たちは、いつしか子守唄のようにやさしく響いていた。

夜明けとともに通過した瀬戸内海の美しさは筆舌に尽くしがたい。今まさに生まれたばかりの太陽が、海を黄金色に染めている。しかもそれは一瞬の輝きで、息を呑んでいる間に日常的な海の姿に変わってしまう。

東京を出てから15時間、西に向かってひた走った青い列車は、ゆっくりと本州の西のはて、下関に到着した。子どもの頃の夢を、実現させた瞬間だった。

昭和31年に誕生した寝台特急あさかぜは、今月いっぱいでその歴史に静かに幕を下ろす。長い間お疲れさま。たくさんの夢を、ありがとう。

2005年2月27日・記



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