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どうしても、どうしても乗りたくて、準備を進めてきた「あさかぜ」に、今日やっと乗ることができます。
東京駅に到着したのは、あさかぜ出発の1時間前。東海道線の一番端っこ、10番線は、その前の「さくら・はやぶさ」を見送り、行き先表示板は「あさかぜ」の出発を知らせて、準備は整いました。
今日乗るのは9号車のB寝台。頭の上の乗車口を知らせるプレートは、様々な特急電車に混じって、寝台特急をあらわす流星マークと共に、掲げられていました。
そうです、この乗車口が、寝台特急の旅の始まりです。
出発予定時刻まであと10分を切った頃、品川方面から四角張ったこんな形の電気機関車に牽引されて、ブルートレインが入線してきました。
方向幕は「さくら・はやぶさ」とは正反対の黒幕です。黒い幕に「あさかぜ」と「下関」の文字がくっきりと浮かび上がっています。
さて、そろそろ発車の時間。9号車、B寝台のドアから乗り込んで、指定の寝台に落ち着きました。
定刻の午後7時、「がちゃん」とひとつ大きな音をたてて、青い列車は走り出しました。
寝台は普通の電車のボックスシートの幅が広がって、片側に寄り、更にそれが2段になった感じです。それぞれの寝台はカーテンで仕切られ、一応プライバシーは保たれているようです。
寝台にはハンガーとシーツ、毛布、それに浴衣が用意されています。
通路側に読書灯が付き、そちらを頭にすればその明かりで十分本が読めます。
幅はなんとか寝返りが打てるかな、という程度。決して広くはないけれど、眠るのに不自由はない作りです。
寝台から通路を眺めた景色です。
幅はやっと反対側からやってきた人とすれ違える程度です。
寝台のボックスひとつにつきひとつ、窓がある感じ。窓の下には折りたたみ式の小さなイスがついていて、ここに座って窓の外を眺めることができます。
寝台のボックスで、窓を目の前にした景色です。
左右にあるのが上段の寝台で、目の前にあるアルミの棒のようなものが、はしご形の階段です。上段への昇り降りにはこの階段を使います。
下半分、黒い部分は窓です。下り列車ではそちらがホームの側になります。
下の方、赤い筋は、横浜近辺の窓に映った夜の明かりです。
列車は品川、横浜と停車し、熱海駅に着きました。
反対側には湘南色の湘南電車が停まっていました。
熱海出ると、静岡、浜松、名古屋と停車します。
静岡を出る頃、列車内の照明は落とされ、車掌のアナウンスもなくなります。
午後11時43分の名古屋駅を最後に、客扱いの停車は終了します。そのあと、京都、大阪、神戸など、いくつかの客扱いなしの運転停車をしながら、明朝最初の客扱い、岡山駅まで走ります。
この写真は、静岡県内のどこかの駅を通過したときの窓の風景です。ホームに灯る蛍光灯の光が流れて行くのがわかります。
朝一番は岡山駅、4時15分です。岡山を出ると、広島県に入り、福山、尾道、三原、西条と停車し、6時31分には広島駅に到着します。
写真は漆黒の闇から徐々に夜が明け始める空の様子です。広島駅到着の直前の景色です。
夜明け前の空が、こんなに明るいとは知りませんでした。
列車は6時31分、広島駅に到着しました。
向こう側のホームに停車するあの電車は、広島から瀬戸内海の海岸線を走って糸崎まで行く呉線の車輌でしょうか。
呉線は西日本でも比較的電化が遅く、蒸気機関車が最後まで走った路線だと聞いています。
ホームには明かりが灯り、もうその日の生活が始まっています。
広島の次の宮島口を出て、しばらくすると、東の空が暁色に燃え始め、朝日が昇りはじめました。
通路側の窓から見た、瀬戸内海の日の出です。
列車が岩国に近づいた頃、水平線の下から雲を赤く染めた太陽は、水平線の上に顔を出しました。
列車が走る線路の隣はもうすぐに海で、朝日に輝く瀬戸内海は筆舌に尽くしがたい美しさでした。
きらきらと輝く瀬戸内海と併走しながら、列車は岩国駅に到着しました。
向こうのホームに停まっているかわいい黄色の電車は、岩国、徳山を結ぶ「岩徳線」でしょうか。
単線、非電化路線で、国鉄型の気動車です。
岩国を出ると、柳井、そして光に停車します。
次の停車駅は徳山です。
看板の向こうに見えるのは、山陽本線の115系でしょうか。
新幹線も停車する徳山駅ですが、今は徳山市の名前はなく、合併によって周南市になっているそうです。
徳山を出ると、防府、新山口と停まります。
新山口は新幹線も停車する駅ですが、その他にもたくさんの路線が集まっています。SLで有名な山口線や、海岸線を回って宇部に出る宇部線などです。
左側は115系の山陽本線、右側はやはり115系だと思いますが、何線でしょうか。
新山口を出ると、宇部に停車です。
ここまで来ると、終点下関までもう一息。
しかし列車は先を急くことなく、やまあいの路線をゆっくりと走って行きました。
広島近辺で顔を出した太陽は、もうかなり高いところまで登っていました。太陽の光を反射してきらきらと輝くレールをゆっくりと走りながら、青い列車は本州の西の端っこ、終点・下関駅に到着しました。
前夜7時に東京駅を出発した青い寝台特急「あさかぜ」は、15時間西向かって走り続け、今やっと終着駅に到着しました。
まるいフォルムのやさしい顔は、仕事を終えた充実感を味わっているように見えます。
電気機関車に牽引される客車寝台は、決して寝心地がいいものではありませんでした。停車、出発の度に「がちゃん」と伝わる衝撃や、線路の継ぎ目、ポイントを通過する度に感じる音や揺れ。普段自宅で眠っているときなら、それは紛れもない安眠妨害です。しかし、この旅では違いました。それら全てが、優しい子守唄になったのです。
こんなに夢をくれる空間なのに、今月いっぱいで姿を消します。昭和31年の誕生から元祖寝台特急としてひた走った48年の歴史に、静かに幕を下ろします。長い間、お疲れ様でした。
2005年2月11日(金)〜12日(土)