夏旅第二弾は、木曽路の旅の最終日に廻る予定を悪天候で中止した、中央本線の辰野廻り巡りに決めました。
木曽路巡りと同じ行程で途中岡谷駅で降り、そこから出ている飯田線の豊橋行きに乗り換えました。
JR東海の飯田線は、豊橋−辰野を結ぶ線ですが、普通列車のほぼ全てが中央本線の岡谷駅まで直通運転しています。
飯田線に乗って3つ目、中央本線辰野廻りと飯田線の分岐駅であり、飯田線の本来の終着駅である辰野駅で列車を降りました。
辰野駅には見慣れないこんな列車が停まっていました。
ヘッドマークに「ミニエコー」と書かれたこの列車は、手荷物、郵便輸送の廃止、縮小に伴い余剰になった荷物電車などを改造し、電化ローカル線向けに投入した近郊型電車です。
ローズピンクとアイボリーの、ちょっと派手目なツートンカラーはちょっぴり目立ちます。
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辰野駅からかわいらしいミニエコーに乗って二つ目、本日の一つ目の目的地、小野駅で下車しました。
長野県上伊那郡辰野町大字小野に位置する小野(おの)駅は、1906(明治39)年6月11日、国鉄中央本線、岡谷〜塩尻間開通と同時に開業しています。
ここ、小野駅にはこざっぱりとした木造駅舎があります。
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駅舎正面、ファサードの様子です。無愛想な平な庇にはシンプルな駅名板が乗っています。
平な庇は無愛想ですが、その下の入口の上には、自然の木の味わいを持つ駅名板が掲げられています。美しい書体の文字の周りは、白い砂利で埋められたように彫られ、遊び心が見えます。
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入口の脇に貼られた建物財産標です。刻印はよく読めませんが、昭和の文字が見えます。駅舎自体は比較的新しいのかもしれません。
正面入り口から左側、切符売り場の窓口です。茶色く塗られたレンガ積みがおしゃれな感じです。窓口には委託の駅員がおられて、切符の販売業務などをしておられました。
正面入り口から見て右側には扉で仕切られた待合室があります。寒い冬にはストーブが設置され、温かな待合室になるそうです。
ホーム側改札口付近には、ホーロー引きの計量管理事業所の看板がかかっています。貨物の取扱があった頃の名残でしょうか。
その下の指差確認の看板も、ちょっぴりレトロな感じがします。
ホームは対向式島式の2面2線を有します。2面のホームは跨線橋でつながれています。後から聞いた話ではこの跨線橋が由緒あるものだとか。しかし、その時はそうとは知らず、写真撮影もおざなりだったのは残念なことでした。
写真は島式ホームに設置された駅名標です。吊下げ型、名所を写し込んだ地平型、そして柱に貼られた縦型、三種が並びました。
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小野駅で2時間ほどを過ごし、ミニエコーで辰野に戻り、飯田線に乗り換えてさっき通り越した川岸駅で下車しました。
長野県岡谷市川岸に位置する川岸(かわぎし)駅は、1923(大正12)年10月28日、国鉄の駅として開業しています。
ここ川岸駅にも、緑のトタン屋根のきれいな木造駅舎が残ります。
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駅舎正面ファサードです。立派な回廊を持つ木造駅舎は緑色のトタン屋根と緑色の文字の駅名板が軽やかです。
回廊の下の入口の上には、木目を生かした駅名板が掲げられています。小野駅のものと似た感じの立派な文字と遊び心のある彫り物のある駅名板が縦書きなのは、板の形をそのまま生かしたからでしょうか。
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駅舎のホーム側の柱に貼られた建物財産標です。刻印は昭和13年、でも、確か開業当時の駅舎のはず。よく見ると昭和の下に大正と訂正した跡があります。正真正銘、開業当時の駅舎のようです。
正面ファサードの屋根の上に掲げられた駅名板です。木製の駅名板の味わいとはまた一味違って、屋根の色にマッチした軽やかさのある駅名板です。
ファサードの横には丸ポストが設置されています。ポストの脇のポールには、「丸型ポスト100周年記念 日本丸型ポスト協会認定第22号」と書かれたプレートが貼られています。へぇ、そんな協会があるんだぁと感心しました。
駅舎を正面右側岡谷方面側から見てみます。
切り妻の屋根に入口から妻部分にかけての回廊、緑色のトタン屋根とそれに合わせた緑色の駅名板。回廊の切れ目には赤い丸ポストと白い販売機。色合いと形、全てがバランスのよい駅舎です。
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駅前の広場には川岸駅開通の記念碑が建てられています。
記念碑の台座には日本国有鉄道のプレートとD51498のプレートが掲げられています。
正面入り口左側には小荷物扱いカウンターがあります。現在無人駅のため、窓口などは板打ちされて閉鎖されていますが、カウンターなどはそのままな感じです。
かつては荷物のやりとりをしただろうカウンターを支える方丈には、美しい意匠のものが使われています。
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駅舎と島式ホームとを結ぶ跨線橋の壁に、こんな駅名標が掲げられています。ひらがなとローマ字で書かれた板は、シンプルで読みやすいものです。
島式ホームの上屋の柱には左右指差確認の注意喚起看板が掲げられています。黄色い板に黒い文字、シンプルで機能的です。
駅舎のホーム側の出入り口の上には緑十字の看板が掲げられています。危険の伴う鉄道施設廻りで、安全への意識への高さが錆ついた看板に表れているようです。
かつての本線のプライドを保ち、バランス良く美しい川岸駅で1時間半ほど過ごし、飯田線の列車に乗って岡谷駅に戻りました。岡谷駅の地平型の駅名標です。本線と辰野廻りとに分岐していることがわかります。
中央本線に乗って東京へ戻ろうとホームを歩いて行くと、上屋の柱に濃紺のホーロー引きの行き先表示板を見つけました。駅のあちこちをメンテナンスしても、さりげなく古いものを残してくれる、その気持ちが嬉しいなと思います。
かつて中央本線だった辰野廻り。その誇りが開業当時の古い駅舎には現れています。本線からはずれてしまっただけに本数も少なく、一日2駅が限度でした。しかし、それゆえに歴史の息吹を感じる駅舎が残ったのかもしれません。人々の暮らしの中にひっそりと佇む歴史ある駅舎はとても美しいものでした。
2010年8月2日(月)