夏旅1日目、太宰治の故郷を目指したのは津軽鉄道でした。
津軽鉄道は1928(昭和3)年2月24日設立の私設鉄道で、津軽五所川原―津軽中里間の20.7qを走ります。
五能線五所川原駅から乗り換えたのは、津軽鉄道の始点、津軽五所川原駅です。
青森県五所川原市字大町に位置する津軽五所川原(つがるごしょがわら)駅は、1930(昭和5)年1月15日に開業しています。開業当時は国鉄五所川原駅と駅舎を共用していました。しかし、1956(昭和31)年7月10日、国鉄と分離し、津軽五所川原駅と改称されています。
JR五能線・五所川原駅の脇にある、津軽鉄道・津軽五所川原駅です。四角いコンクリート造りの建物は、本社ビルとしての機能もあるのかもしれません。
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正面入り口の上に掲げられた駅名板です。白地にブルーの角丸の文字はとてもシンプルです。
駅名板の上には涼しげなブルー地の「風鈴列車」の看板がかかります。冬には「ストーブ列車」が人気の津軽鉄道、夏には「風鈴列車」で涼しさのおすそ分けです。
この駅名板の下の出入り口が、駅舎待合室への入口のようです。
駅舎の左側、おそらく事務所部分の一番高いところに掲げられたマークは津軽鉄道の社章です。
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駅舎の右端、待合室への入口の脇にある改札口です。
錆の浮き出た鉄製の改札ラッチには、「お客様へお願い」として、JR五所川原駅はここではない旨が書かれています。
この改札口を通ればそのままホームに出られます。
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右端の改札口を抜けると左側に出入り口があって(上の写真の左側に見えている扉です)、そこにも改札ラッチがあります。こちらは待合室からの改札口のようです。
改札口の上を見上げると、そこにはこんな形の駅名標。黒板型の駅名標にはレトロ感が漂います。
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待合室の中には「だがし屋 ちゃっぺ」というお店があります。
もともとは駅売店があったそうですが、2008年頃売店が撤退し、その後に駄菓子屋さんが開業したのだそうです。
鉄製ラッチの改札口を抜けてホームへ。
跨線橋でつながれている五能線の五所川原駅を飛び越して、一番奥に津軽五所川原駅はあります。
跨線橋の津軽五所川原駅ホームへの階段の前に掲げられた番線案内は、駅舎内の黒板型駅名標と同じく、黒い板に白い字で書かれたものでした。
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跨線橋の階段を下りて、津軽五所川原駅のホームに到着です。
ホームに設置された地表型の駅名標は、重厚な感じの楷書体の漢字名と、柔らかな感じの角丸のひらがな名が不思議なバランスをとっています。
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津軽五所川原方面側から見たホームです。
1面の単式ホームには側線があり、多くの列車が留置されています。
留置線にポツンと留置されているのは、「ナハフ1200形」列車です。
もともとは西武鉄道から譲渡された列車のようですが、1995年に大方が廃車、現在はイベント用として2両ほどが残されているいるようです。
写真の列車(上の写真の左端に移っている列車)は、物置代わりに使われているようで、塗装も剥げ、ちょっとかわいそうな感じでした。
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いよいよ、これから乗る列車が入線してきました。
オレンジ色にグリーンの帯を巻いた気動車は、「走れメロス」のヘッドマークを掲げています。
前の扉から列車の中に乗り込みます。
乗り込むとすぐに、運転台との境目にタブレットケースがかけられているのを発見。使い込まれたタブレットケース、こんなところに無造作に置いちゃうんだぁ、と妙に感心したりしました。
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列車前方、運転台の脇には本立てが設えられていて、単行本や文庫本が並んでいました。
乗客の退屈しのぎに本を貸してくれるのかなと想像しました。
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オレンジ色のキハに揺られて約50分、列車は金木駅に到着です。
駅舎のホーム側の壁に設置された駅名標は、津軽五所川原駅で見たのと同じ、重々しい楷書体の駅名標です。
どっしりとした楷書体の駅名標の隣には、ここにもさりげなくタブレットケース。なんだかのんびりしてるよねぇとにんまりしてしまう光景でした。
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青森県五所川原市金木町に位置する金木(かなき)駅は、1930(昭和5)年7月30日に開業しています。
2003年12月に改築された現駅舎は、コミュニケーションセンターを併設しています。
金木駅は津軽鉄道の駅の中で唯一、交換設備を持つ駅です。
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対向式2面2線のホームの、駅舎と反対側のホームに設置された駅名標です。
木枠に屋根を乗せた立派な造りのフレームに、ポップな書体が踊ります。
屋根付きの立派な造りは、太宰治の斜陽館の大豪邸をイメージしているのかもしれませんね。
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対向式のホームは構内踏切で結ばれています。
ホームからの階段を下りて踏切に向かう前の電柱には、「出口」の案内表示と板に古風な文字の縦型の駅名標が掲げられています。
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「出口」の案内表示からずっと上に目を向けると、そこには裸電球に笠を付けたレトロな電灯が二つあります。
あの赤い電灯は、何?と不思議に思いながら見ていると、後からやってきたシルバー世代のご夫婦の旦那様が「僕はあれがすごく気になるんだ」と言いながら、写真を撮っておられました。
やがて列車がやってくる、という頃、赤いランプは消えてしまいました。
あとから調べた情報によれば、タブレット閉塞の津軽鉄道のうち、唯一の交換設備を持つ金木駅には構内に腕木式信号機があるとのこと。駅名標の脇にさりげなく置かれたタブレットケースと消灯した赤いランプと腕木式信号機、三つがなんとなく繋がった瞬間でした。
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太宰治の世界に浸って駅に戻り、切符売り場の窓口を覗くと、さまざまな記念切符のチラシが貼ってありました。
まずは「津軽鉄道版画乗車券 七不思議」という記念切符を購入。
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黄色い表紙をめくると津軽鉄道七不思議が版画で表現された台紙になっていて、それに該当する区間の硬券が添付される形になっています。
ストーブ列車にまつわる話、風鈴列車にまつわる話、鈴虫列車にまつわる話などに混じって、「図書館でもないのに文庫読み」という文も見つけました。
極寒の地を走る津軽鉄道ですが、列車の中は温かいのねと思った記念切符でした。
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津軽鉄道の春夏秋冬を列車の姿から写したポストカードも一緒に購入。
手書きのイラストつき封筒には5枚のポストカード。
満開の桜の中を行く春の姿、濃い緑に赤い花を咲かせる夏の風景を行く姿、黄金色に輝く稲穂の中を行く秋の姿、吹きつける雪の中を走るストーブ列車の冬の姿など、それぞれの季節を切り取った美しい風景がありました。
本州の北の果て、長く厳しい冬を耐え抜く津軽の大地には、寒さをはねのける強さと温かさを感じるのでした。
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2010年7月31日(土)