太宰治を満喫した後は五所川原→川部→青森と乗り継ぎ、東北本線に乗り換えて浅虫温泉駅へ。
本日の宿泊は東北の熱海ともいわれる浅虫温泉です。陸奥湾に面していて、海水浴や海釣りなども楽しめる温泉地です。太宰治が愛した温泉でもあります。
海で採れた新鮮な魚介類や十和田牛などを堪能し、ゆっくりと温泉も楽しんで、一晩お世話になった旅館「すみれ荘」を後にします。
旅館の入口でくつろぐのは看板猫ちゃん。猫好きの私としてはもう放ってはおけず、しばらくの間遊んであげました(いや、「もらいました」かも)。
前日と逆ルートをたどり、浅虫温泉から東北本線で青森駅へ。
太平洋側を走る東北本線と、日本海側を走る奥羽本線とが出会うターミナル駅は、独特の郷愁があります。青函連絡船への乗り換え駅として活況を呈していた終着駅ですが、青函トンネルができてしまった今となっては郷愁もひとつ失われた感じでしょうか。
駅前は東北新幹線の全通を控え、工事が急ピッチで行われているようで、駅舎自体は柵で覆われていたのが残念でした。
夏旅2日目は弘前の町をめぐる旅です。
青森駅からは特急かもしか号に乗って、弘前駅を目指します。
東北本線―奥羽本線の直通運転も多く、かつてのターミナル駅の趣は薄れているのでしょう。それでも3面6線、13両の長大編成にも対応できる長いホームは往時をしのばせます。
青森駅から特急列車で約30分。昨日あけぼの号から降り立った弘前駅に戻ってきました。
弘前藩の城下町として発展したこの町には、今も多くの歴史的建造物が存在します。それは日本古来の武家屋敷だったり、明治・大正時代の洋風建築だったり。それらの建物を「趣のある建物」として、弘前市が指定し、風情ある街づくりを目指しているようです。
青森の夏といえばねぶた祭り。ちょうどこの日(8月1日)は弘前ねぶたの日だったらしく、町中のあちこちでねぶたの準備をする山車に出会いました。
写真は弘前ねぶたで多くみられる扇ねぶたです。
まずはねぶたを体感しようと、「津軽藩ねぶた村」へ行くことに。
ねぶたに関する説明を聞き、展示物を見て、お土産も買っていよいよ町を散策。
しばらく歩くと、旧高谷家別邸(元寺町)です。
総檜・入り母屋造りの建物は明治28年の建立。戦前は第五十九銀行(現・青森銀行)頭取の高谷英城氏の別邸「玄覧居」として使用されました。
現在は「翠明荘」という料亭となっています。
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同じ通りのお隣、石場旅館(元寺町)です。
創業明治12年の老舗旅館は、白い漆喰の壁が鮮やかなハーフティンバー様式の建物です。
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石場旅館のファサードです。
黒光りのする柱や木枠のドアの中で、白地に黒い隷書体の看板が引き立ちます。なんとなくかわいらしさを感じるのは、左側のマークのせいでしょうか。
更にお隣、日本キリスト教団・弘前教会(元寺町)です。
明治39年建立の建物は、ノートルダム寺院に似た双塔木造ゴシック様式です。
青森県の重要文化財に指定されています。
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左右対称の真中あたりを下から見上げてみました。
窓や壁の意匠が美しいものです。
木造でありながら長い年月を経てもなお朽ちないのは、青森県産のヒバを使っているからだそうです。
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大きな交差点を右に折れて弘前城の方へ歩いてゆくと、竹田家住宅(下白銀町)があります。
弘前城のすぐそばの建物は江戸時代に同地にあった武家住宅の形式を受け継いでいるとされる、古色を残した建物です。
現在も居住者がおられる様子でしたので、撮影は道路から見える位置から1枚だけとしました。
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竹田家住宅からしばらく歩くと、現れる洋館は青森銀行記念館(元長町)です。
青森県の最初の銀行である第五十九銀行(現・青森銀行)の本店として、明治37年に建てられました。ルネッサンス様式の建物は石積みの重厚さと、ドーム型の屋根の明るさを持っています。
青森県の重要文化財に指定されています。
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入口付近を見上げて見ます。
入口上部のドーム型の飾窓には、凝った意匠が施されています。
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青森銀行記念館の内部は、その当時の銀行の様子が保存され、展示されています。
写真は2階の大広間です。磨き上げられた木の床に、窓からの柔らかな光が差し込みます。
天井から下がるシャンデリアと、それを支える天井も、とても美しいものでした。
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青森銀行記念館を出て、ゆっくりと弘前駅を目指すことに。
見えてきたのは田中屋(元寺町)です。
明治30年創業の津軽塗製造・販売店です。黒い骨太の柱は、昭和51年改築の際に、旧市役所の木柱を再利用したものです。
真っ白の壁に黒い柱、その横にはレトロな丸ポスト。美しいコントラストだなと思います。
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田中屋と交差点を挟んだお隣は旧弘前無尽社屋(三上ビル)(元寺町)です。
大正13年創業の弘前無尽株式会社の自社専用ビルとして建てられたもので、弘前市内では初期の鉄筋コンクリート建造物です。角地の隅を切り垂直性を強調した壁面と3階窓上部の意匠など、アールデコ調のしゃれたデザインです。
青森県の登録有形文化財に指定されています。
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田中屋と旧弘前無尽社屋の間の通りを弘前駅に向かって歩いて行きます。
道路左手に亀屋革具店(一番町)が見えます。
創業以来、馬具を専門に商ってきましたが、最近では馬具作りで培われた匠の技を活かし、かばん作りなどを始めたことから、「東北のエルメス」とも呼ばれています。
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あちこち歩いて疲れてきたし、少し休もうかということになりました。
同じ通りから少し路地を入ったところに、名曲&珈琲ひまわり(坂本町)を見つけ休憩です。
昭和34年の建築以来、外観や内装などがほぼ当時のままのこのお店では、絵画展やコンサートが開かれるなど、弘前の文化の発信地にもなっています。
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喫茶店ひまわりの看板です。パッと開いた感じがひまわりを表しているのでしょう。
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ひまわりでお茶を飲んだ後、また通りに戻って弘前駅の方向に歩き始めました。
駅に向かって左手に見えてきたのは、開雲堂(土手町)です。
銅板の外壁が看板建築の特徴を残す創業130年の老舗和菓子店です。津軽藩の旗印で市章にもなっている卍をかたどった最中が名物です。
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更に駅に向かって歩くと、かわいらしい時計台のある建物が見えてきます。
一戸時計店(土手町)です。
赤い円錐形の屋根を持つ時計台は開業当時からのもので、現在でも土手町のシンボルとして親しまれています。緑色のトタン屋根と赤い尖がり帽子がかわいらしさを引き立てます。
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円錐形の尖がり帽子のてっぺんには風見鶏。
時計台の二つの時計の時間が微妙にずれているようですが、これも御愛嬌、でしょうか。
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一戸時計店から右側の路地へ曲がってみます。
道なりに歩くと、レンガ造りの建物が見えてきました。
弘前昇天教会(山道町)です。
大正10年に建てられたこの聖堂は、イギリスゴシック様式です。建物最上部にある鐘の音は、5キロ先でも聞こえるほどだそうです。
青森県の重要文化財に指定されています。
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そこからしばらく行くと、弘南鉄道大鰐線の中央弘前駅があります。
武骨な感じの駅舎の前では客待ちのタクシー。列車の時間も迫ってきたことだし、タクシーに乗っちゃおうかと意見がまとまりました。
津軽弁の運転手さんの、ねぶた祭りの話や、お盆を過ぎるとめっきり秋めく話など、ほのぼのと聴かせてもらいました。
列車発車時刻の30分ほど前に駅に到着、五能線のリゾートしらかみ号で本日の宿泊地、鰺ヶ沢を目指します。
「趣のある建物」をコンセプトに町づくりをする弘前の町では、古き良き時代の風情にあふれた建物を堪能することができました。近代的な町の中で、その目の前に立った瞬間、長い間積み重ねてきた歴史の息吹を感じるのでした。
※各建物の説明は、弘前市のサイトやパンフレットを参考にしています。
2010年8月1日(日)