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ホテルでゆっくり休んで旅の疲れもとれました。さて、いよいよ駅舎めぐりの旅が始まります。
早朝6時前、空は曇りがちですが、雲の隙間から朝日のオレンジ色も見えています。熊本駅前の大きな木には、たくさんの鳥たちが停まって、朝の歌をうたっていました。 |
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鹿児島本線、八代行きの一番列車は6時の出発です。この列車に乗って、まずは肥薩線の始点駅、八代駅をめざします。 |
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熊本駅から八代駅までは37分。列車を降りて、一番駅舎側の肥薩線のホームに移動します。
ホームには肥薩線の起点を示す0キロポストがありました。 |
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やがて、6時47分発の人吉行きの列車がやってきました。
かつて常磐線を走った415系電車(2007.3.17・引退)と同じ塗装を施すこの列車はキハ40系の気動車で、九州色と呼ばれています。
白地にブルーのライン、側面のラインの中ほどにはJR九州のコーポレートカラーの赤で「JR」のマークが入っています。
昨日の鳥栖駅から、乗るのはすべてステンレスの新型電車だったので、思いがけずも出会えた白地にブルーに感動しました(これから先、飽きるほど出会う列車なのですが・・・)。 |
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キハはごとごとと音をたてながら約20分、次の次、坂本駅に到着しました。
列車を降りたホームから、向かい側の駅舎のあるホームへは跨線橋はなく、踏切を渡ります。改札付近には懐かしい濃紺に白地のホーロー引きの駅名標があります。 |
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熊本県八代市に位置する坂本(さかもと)駅は、1908(明治40)年に開業しています。
開業当時の古い木造駅舎は、左半分が八代市商工会の事務所になっています。
駅舎を正面から見てみます。こんもりと覆いかぶさるような濃い緑の前で、下見板張りの壁を持つ木造駅舎には威厳のようなものすら感じます。 |
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駅舎側のファサードは、三角屋根を乗せ、てっぺんには小さな鬼瓦が乗っています。屋根の下の壁は縦羽目板張りに黒い梁を配し、その中央にシンプルな駅名板が掲げられています。
入口の黒い柱と白い漆喰の壁、そこにはレトロな赤い丸ポストがよく似合います。 |
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外での撮影を終えて駅舎内に入ると、さきほどはいなかった委託の駅員さんがいらして、仕事をされていました。
ひとしきり乗客の応対が終わると、駅員さんは待合室の掃除を始めました。床やいすなどを掃きながら、「どちらから?」と聞かれ、お話を聞かせていただきました。
半分を商工会の事務所にするとき、改築の話も出たのだそうですが、古い駅舎を残したいという住民の気持ちが強く、半分を事務所のために改装する今の形をとったのだそうです。
しばらく、そうやって話をしている間、ベンチに座っていた高校生くらいのお嬢さんが立ち上がり、駅員さんに何か話しかけたかと思うと、どこからか雑巾を持ってきて、駅員さんが箒で掃いたいすをひとつひとつ丁寧に拭き始めました。
駅員さんの話を聞き、自主的に行動するお嬢さんをみて、本当に地元に愛されている駅なんだなと思い、その結果、こんなに温かい待合室があるんだなと思ったのでした。 |
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温かい雰囲気の坂本駅で1時間を過ごし、また列車に乗りました。
坂本駅から出た列車は、肥薩線の観光列車、「いさぶろう・しんぺい号」でした。普通列車としての運行らしく、指定券の必要ない列車で、ちょっと得した気分でした。
途中、3つ目の瀬戸石(せといし)駅でしばらく停車するというので、列車を降りて古い待合室とともに撮影しました。 |
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球磨川の急流を眼下に見ながら30分弱、6つ目の白石駅に到着しました。
ホームから見える駅舎はここも古い木造駅舎で、白いハーフティンバーの壁と、灰色の瓦屋根、広い庇がとてもいい感じです。 |
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熊本県葦北郡葦北町に位置する白石(しろいし)駅は、1908(明治40)年に開業しており、開業当時の駅舎が残ります。
正面から駅舎を見てみましょう。駅舎の前は小さな道を一本隔てて球磨川が流れ、正面から駅舎全景を捕らえるのは困難でした。
ファサードから駅舎入口を見てみます。白いハーフティンバーの壁に黒地に白の駅名板が掲げられています。縦羽目板張りの腰壁、下見板張りの壁、入口の向こう側にかすかに見える木製の扉に、木のぬくもりを感じます。 |
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駅舎を出て、八代方面に少し戻ると、球磨川に架かる橋があります。そこを歩いて、川の反対側へ行ってみることにしました。
日本三大急流のひとつに数えられる球磨川は、豊かな水を満々とたたえる一級河川です。確かに水量は多い、でも思ったほどの激しい流れではないなと感じるのは、渡から球泉洞にかけて(白石よりも人吉寄り)のもっとも急な流れを出て、ここ白石で一息つく感じがあるからでしょうか。
橋の中ほどから、川の向こうの駅舎を撮ってみます。橋の上は思いのほか風が強く、恐怖さえも感じます。でも、濃い緑に囲まれた木造駅舎は、恐怖以上に美しいと思うのでした。
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朝8時34分に白石駅に到着し、次の列車まで2時間44分の時を過ごしました。
駅舎の中の待合室は何もなくがらんとしていますが、板張りの壁に張り付いた木のベンチや白い漆喰の壁にあたたかなぬくもりを感じます。また、無人駅ですが、ここにも駅を守る方がおられて、駅舎内の掃除やら駅舎周りの手入れやらをされているようです。一仕事終えて待合室に入ってきたおじいさんは、球磨川に関する見所をあれこれ話してくださいました。
台風が去った後の猛暑の九州ですが、球磨川からの風は涼やかで心地よく、長い待ち時間はおじいさんとお話したり涼やかな風の中で本を読んだりしているうちにあっというまに過ぎて行きました。
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3時間近くを費やした白石駅からまた列車に乗ります。
白地にブルーのキハのロングシートに腰掛け、窓の外の球磨川の流れを見ていると、地元の方なのでしょうか、女性が話しかけてきました。台風の影響で増水していたため、中止していた急流下りが再開したらしいよ、と。
そんな話をしているうちに、白石駅から二つ目、一勝地駅に到着しました。
ここもまた、木のぬくもりに包まれた、古い木造駅舎です。 |
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熊本県球磨郡球磨村に位置する一勝地(いっしょうち)駅は、1908(明治40)年に開業しています。
駅舎には地元の農業組合であるJA球磨が同居しており、待合室の窓口では農協業務と駅業務を一緒に行っているようです。
駅舎を正面からから見てみましょう。白いハーフティンバーの壁を擁する建物は背が高く、入口の広い付け庇と壁の高い部分に直接書かれた駅名が印象的です。
駅前はさほど広くはなく、目の前を広い道路が走り、崖の下を球磨川の急流が流れています。 |
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特急列車も停車する一勝地駅は、単式・島式2面3線の立派なホームを持っています。駅舎のある単式ホームと向かいの島式ホームの間に跨線橋はなく、人々は踏切を渡って改札を出てゆきます。
島式ホームに八代行きの列車が到着したとき、列車から降りたおばあさんは、駅舎の改札を出ずに、列車と平行に線路の間を歩いて行きました。
何時間に1本しかない田舎のローカル線ならではの、のんびりとした風景にしばし見とれてしまったのでした。
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一勝地駅では3時間30分の待ち時間があります。目の前を流れる球磨川に沿って、少し歩いてみることにしました。
先ほどの白石駅では、水量は多いものの、急流のイメージはあまりなかったのですが、ここ、一勝地の球磨川は右に左にと蛇行しし、周りの岩を削るがごとくの急な流れに変わっていました。
切り立った緑の山々の間を、水はうねりながら流れてゆきました。 |
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時間はたっぷりあるので、河原に下りる階段に腰掛けて本を読むことにします。河原では若者たちがバーベキューをしており、とても楽しそうでした。
しばらくすると、川上から舟がやってきました。船頭さんのこぐ舟で、ライン下りです。あぁ、これが有名な「球磨川ライン下り」だな、としばし眺めました。
その後からも、さきほどからバーベキューを楽しんでいる若者たちでしょうか、ラフティングのゴムボートも通り過ぎました。スリルは満点らしく、若者たちの叫び声も次第に大きくなり、見ているだけのこちらまで楽しくなってきました。 |
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一勝地の駅舎の待合室は、老人会かなにかでみんなして出かけるところなのか、たくさんのお年寄りがおられてにぎやかにお話をされています。そろそろ次の列車が来るころかな、と駅舎に戻ると、みなさんで列車に乗った後だったのか、待合室は急にしんみりと静まり返りました。
しばらく静かな待合室でぼんやりしていると、人吉行きの列車がやってきました。 |
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一勝地駅はその名前から、縁起のいい駅とされています。
「まず、地に足をつけて一勝」ということで、甲子園出場を夢見る高校球児とか、受験の合格祈願などにも、一勝地駅の入場券は人気なのだそうです。
何かいいことがあるかも、と早速1枚購入。でも、平日のみの販売なのだとか。ということで、それも早速のご利益かも知れません。 |
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一勝地駅を出て約10分、二つ先の渡駅に到着しました。
熊本県球磨郡球磨村に位置する渡(わたり)駅は、1910(明治42)年に開業しています。
駅舎には地元の商工会が入居していますが、坂本駅とはちがって駅の業務は行っておらず、完全な無人駅のようです。駅舎の大半を商工会が占め、待合室は右の端っこに追いやられ、とってつけたような形になっています。
狭い待合室には若いカップルがいて楽しそうに話をしていたので、ちょっと周辺を歩いてみることにしました。 |
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駅の周辺は住宅も多く、広い道路も走っています。球磨川の本流から少し外れたところには支流の小川が流れ、球磨川の急流では見られないような透き通るような清流が流れています。また、周辺には水田が広がり、緑色の稲が当たりを埋め尽くしていました。 |
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田園をしばらくあちこち歩き回っていると、道端にこんなものを見つけました。赤くて丸っこい、レトロチックな消火栓です。路地と民家との境目に、忘れ去られたようにぽつんと立つ姿はなんともいえない懐かしいものでした。 |
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駅周辺を歩き回るのも疲れて駅に戻ってくると、先ほどのカップルは帰るところでした。渡駅での待ち時間は2時間30分。まだ時間はあるな、と待合室に入ります。
その日、これまで見てきた駅のなんとなく大事にされている様子とはちがって、西日の差す狭い待合室は蒸し暑く、ごみも散乱した状態で、ちょっとがっかりしたりもしました。
そのとき、ちょっと疲れの出始めた私の目の前に、思いがけないお客さんがやってきました。きじとら模様のにゃごです。
待合室のベンチに座る私の目の前に現れたにゃごは、しばらく様子を伺うといったんは外に出てゆきました。姿はあっというまに見えなくなってしまったのですが、二度目に現れたとき、首周りをこちょこちょしてやると気持ちよさそうにした後突然ごろりと寝転がり、顔を洗い始めました。
どうやらにゃごはこの駅の主で、お客さんは私の方だったようです。
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ちょっぴり疲れの出てきた体も、にゃごの登場で少しほぐれ、渡駅を後にしました。
列車はそれから10分ほど走り、今日の終着駅、人吉駅に到着しました。
八代駅から人吉駅まで、駅の数は15駅。その中から厳選して4つの駅を見てきました。どの駅も昔ながらの木造駅舎を残し、大切に使われているのが伝わってきました。
待ち時間は1時間から3時間半。それでもいつものことですが、長い待ち時間が少しも苦にならないひと時でした。
それぞれの駅にそれぞれの生活があり、それぞれの日常がある、そんな当たり前のことを、今回もまた強く感じるのでした。 |
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2007年8月7日(火)
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