出発の朝、自宅付近は大雨でした。計画段階ではわくわくしていた夏旅でしたが、心は少し萎えていました。
中央線快速電車は、大雨の影響で若干の遅れがありましたが、なんとか高尾駅で中央本線に乗り換え、甲府駅で長野行きの列車に乗り継ぎました。
甲府駅では約30分の待ち時間があります。一旦改札を出てカフェでお茶を飲み、戻ってくるとホームには高尾方面行きのスカ色列車が止まっていました。中央東線での主力列車は115系、でも白と水色のツートンカラーににパステルグリーンの帯の長野色が断然多く、このスカ色は稀少なのかなと思います。房総半島を走る113系スカ色車も引退し、ますます目にする機会が減ったスカ色電車、ここで堪能しました。
甲府駅から約1時間半、列車は塩尻駅に到着しました。
塩尻駅は境界駅で、以東をJR東日本、以西をJR東海が管轄します。東日本管轄と東海管轄はそれぞれに中央東線、中央西線と呼ばれて区別され、系統はここで完全に分断されています。
塩尻駅自体はJR東日本の管轄のため、駅名標は東日本の緑色です。
そういうわけで、ここからはJR東海の列車に乗り換えです。
JR東海の近郊型の主力、313系列車は、JR東海のコーポレイトカラーのオレンジ色の帯を巻いて走ります。
列車は中津川行き、3両編成のワンマンカーでした。
夏旅の始まりはここ、洗馬駅から。中央西線に乗り換えて一つ目の駅です。
洗馬(せば)駅は長野県塩尻市大字宗賀洗馬に位置し、1909(明治42)年12月1日に塩尻〜奈良井開通とともに開業しています。
中山道の宿場町、洗馬宿として栄えた洗馬駅には、立派な木造駅舎があります。
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駅舎正面、ファサードの様子です。
庇の奥の赤いポストがとてもよいアクセントになっています。
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ファサードに掲げられた駅名板です。
1枚板に書かれた毛筆の文字に、宿場町の歴史を感じます。
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入口の脇に貼られた建物財産標です。明治42年12月、開業当時の建物です。
ホーム側上屋です。
板張りの屋根を木の梁と柱が支えます。
柱と梁をつなげる部分にもさりげなく意匠が施されています。
駅舎内の待合室には、窓の下に貼りついた形の木製のベンチが設えられています。
こげ茶色に塗られたベンチは艶を持ちつつ、使い込まれて色あせた感があり、木のぬくもりを感じることができます。
ファサード付近から斜めに駅舎を見ています。
縦羽目板の腰壁に、朱色の郵便ポストがかわいらしくマッチしています。
洗馬駅で約45分ほどの時を過ごし、また列車に乗って次の次、贄川駅に降り立ちました。
贄川(にえかわ)駅は、長野県塩尻市大字贄川に位置し、洗馬駅同様に1909(明治42)年12月1日に塩尻〜奈良井開通とともに開業しています。
ここ贄川駅にも、味わいのある古い木造駅舎があります。
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贄川駅の入口に掲げられた駅名板です。
孤を描く1枚板に、毛筆で駅名が書かれているのは洗馬駅と同じですが、洗馬駅よりも繊細な感じの書体です。
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駅舎正面入り口脇に貼られた建物財産標です。
こちらも明治42年12月、開業当時の駅舎であることがわかります。
中津川方面側から見た駅舎妻部分です。
押縁下見板張りの壁は美しいものでした。
駅舎側の上屋を支える柱には、洗馬駅と同じようにさりげない意匠が施されています。
白く塗られた洗馬駅に比べて、より木の味わいが深い贄川駅の柱です。
ホーム側改札口付近から駅舎を斜めに見てみます。
ほどよく色あせた縦羽目板張りの腰壁が味わい深いものになっています。また、腰壁の上の窓は木枠でこれがまたよい雰囲気です。
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駅舎内の待合室の窓も、全てが木枠の窓でした。木枠の窓には昔ながらのねじ式の鈎が付いていました。(暗くてきれいに撮影できなかったのが残念です)
贄川駅で約1時間の時を過ごし、また列車に乗って、次の次、奈良井駅に降り立ちました。
奈良井(ならい)駅は、長野県塩尻市大字奈良井に位置し、洗馬駅同様に1909(明治42)年12月1日に塩尻〜奈良井開通とともに開業しています。
中山道の奈良井宿としてにぎわったここ奈良井駅にも、宿場町ににつかわしい美しい木造駅舎があります。
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駅舎正面に掲げられた駅名板です。
1枚板に彫られた駅名は楷書体の贄川駅に対して行書体に近い書体です。
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ファサードを中津川方面側から見てみます。
入口付近は観光地奈良井宿の駅としての顔を持ちます。観光案内所の看板どおり、駅舎内は案内所になっていました。
真壁づくりの白い壁と縦羽目板の腰壁、窓の日よけがとても美しいものです。
入口付近に貼られた建物財産標です。
財産標は明治42年10月、開業よりも2カ月早くの竣工のようです。
駅舎前は広く、観光客用の駐車場も兼ねているようです。駅舎の中津川方面側の駐車場の駅舎寄りには丸ポストも設置されて、レトロな雰囲気を出していました。
駅舎内の様子です。
駅事務所は左側に切符売り場の窓口、右側には手荷物扱いの窓口があります。切符売り場では切符の販売など、駅業務が行われていますが、手荷物扱いの窓口は観光案内所になっていて、女性の職員が案内業務を行っていました。
窓口は木の枠、木のカウンターに大理石の切符台と、昔ながらの形です。
簡易委託駅の駅舎は終了時間が早く、夕方4時には閉鎖されてしまうようです。
駅舎内の待合室に設置された壁に造りつけのベンチには畳が張られていて、和の趣を持っています。座ってみても温かみを感じます。
駅の周辺は奈良井宿で、観光地としてよく整備されています。
奈良井駅での待ち時間は約1時間、あまりゆっくりはできないけれど、少し散策してみることにしました。
駅を出て中津川方面に少し歩くとそこはもう奈良井宿の通りです。
奈良井宿の碑を過ぎて通りに入ってすぐの1、2件目、ここはまだ観光地というよりも、奈良井の住民の方が生活する民家なのかもしれません。
もっと奥へ進んでみたいところでしたが、駅舎に見とれて時間を過ごしすぎたせいかこの入口付近で時間切れとなってしまいました。
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洗馬、贄川、奈良井と、中山道の宿場町の駅を堪能し、間の3駅を通り越して、宿泊地の木曽福島駅にやってきました。
木曽路の中心駅、木曽福島(きそふくしま)駅は、長野県木曽郡木曽町福島に位置し、1911(明治43)年11月25日、西から延伸してきた中央西線の終着駅として開業しています。
駅舎は昭和56年に改築されたもので、南木曽駅に似ています。
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夏旅の1日目は、江戸時代からの歴史を持つ旧中山道の宿場町を駆け足で巡りました。
長い中山道の宿場町の内のほんの一部ですが、そこは宿場町として栄えた江戸時代そのままでした。奈良井宿のように観光地として整備され、多くの観光客が訪れる宿場はもちろんのこと、そうでない宿場も当時の良き姿を残し、あるところはにぎやかに、あるところはひっそりと、歴史の息吹を感じました。
木曽福島では小さな旅館に宿を取り、木曽の温泉を堪能しつつ、アットホームな雰囲気の中で明日への英気を養いました。
土砂降りで、萎えかけた出発でしたが、気づけばいつのまにか雨は上がり、ときに青空も覗かせる絶好の旅日和となりました。しかし、安堵の時は長くは続かず・・・続きは次回に。
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2011年8月22日(月)