《豊肥本線・その1》
  
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駅舎めぐりの旅三日目は、九州中央、阿蘇カルデラの中を横切って九州を横断する豊肥本線を巡ります。
一番列車に乗るために、ホテルを出て大分駅へ。正面の時計台は6時20分を指しています。
豊後の国大分と肥後の国熊本を結ぶから豊肥本線。しかし、路線名とは逆で熊本が起点、従って今日は、豊後の国から肥後の国へ上ることになります。
大分県大分市に位置する大分(おおいた)駅は、1911(明治44)年11月1日、豊州本線(現・日豊本線)開通時に開業しています。
1958年に建設された鉄筋コンクリートの駅舎は県庁所在地の代表駅であるだけに、大きな駅です。駅名板の赤と縁取りの赤、これが大分駅のシンボルカラーでしょうか。
しかし、現在大分駅では駅の高架化工事が行われており、それに伴って半世紀を生きたこの駅舎も改築されるそうです。
これから乗る豊肥本線、3日前の8月24日に橋上ホームが開業したばかり。改札口にもそれらのお知らせが大きく掲げられ、乗客もその掲示に見入っています。
行き先表示は一番左、6時43分発の豊後竹田行きです。
改札を入り、階段を降りて地下通路へ。どこにでもある何の変哲もない地下通路ですが、駅舎正面の駅名板と同じイメージを持つ大きな赤い番線表示が個性的です。
一番奥の豊肥本線、久大本線の6、7、8番線の乗り場への階段を上り、旧ホームへ。
ホームから更に通路や階段を行くと、6番線の表示と、行き先表示板が見えます。
慣れない乗客のために案内役に立っていた警備員さんは、行き先表示板にカメラを向けると、撮影しやすいようにと表示板の真下から脇に移動してくれました。
最後の階段を上がって、高架ホームへ。
白を基調にしたできたてのホームはきれいで、濃紺の案内板が白い壁に美しく映えています。
赤の乗車位置から、6時43分発の豊後竹田行きに乗り込みます。
高いホームの白い柵から下を見ると、眼下に旧ホームが見えます。
見えているのは単式島式4面7線のうち、日豊本線が発着する三つのホームです。いずれはこれらも高架化されてなくなるはず、これが見納めになるかと思うと、寂しいと同時に、今しか見られない姿ということで感慨深いものもあります。
豊肥本線のホームに設置された駅名標です。トレードマークは「高崎山のお猿さん」です。
大分駅から赤いキハに乗って約1時間10分、終点の豊後竹田駅で降りました。
滝廉太郎作曲の荒城の月のモデルとも言われる岡城の城下町として知られる竹田市の代表駅は、数寄屋造りの立派な駅です。
駅舎の後ろの切り立った崖は、「落門の滝」と呼ばれる滝なのですが、あまりはっきりとはわかりません。
大分県竹田市に位置する豊後竹田(ぶんごたけた)駅は、1924(大正13)年10月15日豊後竹田(ぶんごたけだ)駅として開業、1969(昭和44)年10月1日に「ぶんごたけた」と読みを改めています。
立派な鬼瓦を乗せた入母屋屋根のファサードと、その上の駅名板を掲げたドーマー、そしてなまこ壁など、お城をイメージした美しい姿です。
駅舎正面の通りを渡ると、通りに沿って川が流れています。川の名前は「稲葉川」。川に架かる駅前の橋の上から熊本方面を見ています。
豊後竹田駅では2時間44分の待ち時間。しばらく構内を散策したあと、隣接の観光協会の案内所も営業開始したので、パンフレットをいくつかもらい、町内を散策してみることにしました。
駅前の橋を渡り、右に折れて川沿いをしばらくいくと、こんな建物が見えてきます。白い柵に掲げられた「佐藤義美記念館」の看板には、わんちゃんのマーク。童謡「犬のおまわりさん」の作者、ご当地出身の佐藤義美さんの記念館です。
観光協会でもらったパンフレットによると、竹田の町を流れる川に架かる石橋が美しいとのこと、次の列車がくるまでの2時間ほど、石橋めぐりをしてみようかなと思います。
佐藤義美記念館の前を通り過ぎ、しばらく行ったところを左に曲がると、そこは「稲葉川やすらぎ公園」で、こんな風に均等な二つのアーチを持つめがね橋が架かっています。もともとは高千穂町への県道の側を流れる瀬の口川に架かっていた「宮瀬橋」で、平成5年の大水害で損傷した橋を保存のために移築したものだそうです。
水鏡に映し出された石橋が美しい姿を見せています。
しかし、歩き始めてまもなく、今にも泣き出しそうな空から、とうとう雨が降ってきました。
石橋めぐりはあきらめて駅周辺の散策に。稲葉川やすらぎ公園の脇にある道しるべはこんなにたくさん見所が書かれていてどこも見てみたい気がするのですが、次の列車が来るまでの短い時間だし、とりあえず右に折れました。
竹田市歴史資料館が見えてくると、その対面あたりに滝廉太郎トンネルがあるという案内表示があります。何気に路地の奥を覗いてみると、たしかにトンネルがあり、蔦の絡まる石造りのアーチに「廉太郎トンネル」と書かれたプレートが貼ってあります。このトンネルをくぐると滝廉太郎記念館があるらしいのですが、今日はここまでにしておきます。
廉太郎トンネルのある路地から大きな通りに戻りしばらく行くと、古いけれど趣のある建物が見えてきます。入口に掲げられた看板には「竹屋書店」と書かれています。
昭和初期の蔵づくりの建物で、もともとは古本屋だったそうですが、閉店後、古布ギャラリー「和小物の店 竹屋」として復活したお店だそうです。売っているものは変わっても看板は昔のまま、それがこの趣のある「竹屋書店」です。
竹屋書店の何件か先に、またもや古い建物があらわれます。
「塩屋荒物店」と書かれた、竹屋書店と同じような蔵つくりのお店では、日用品やロープ、旅行用品など、が売られているそうです。お店の前にもかごや帽子などがところ狭しと並べられていて古きよき昭和の懐かしい風を感じます。端っこの黄色い幟には「駄菓子」という文字も見えます。
白い鉄板に飾り気のない黒く太い明朝体の文字で書かれた看板が、素朴な味わいを見せています。
途中から降り出した雨は少し強くなってきたので、古いお店の前の通りを左折し、駅に戻ることにしました。
駅舎の左側、少し坂を上がると駐車場になっていて、赤いキハが停まるホームが同じ高さに見えます。
島式1面2線のホームと駅舎です。
ホームに設置された駅名標です。丸太を模った鳥居型の駅名標のトレードマークは「荒城の月」です。
散歩に出る前に、待合室の売店の女性に、「荷物を待合室の端っこに置かせてもらってもいいですか」と尋ねると、「こちらで預かっておきますよ」と売店の中で預かってくれました。雨のため少し早めに切り上げて待合室に戻り、お礼を言って荷物を受け取り、ついでにビン牛乳を買いました。
地方には地元の乳業会社があり、その地域だけの牛乳瓶が使われることがよくあります。豊後竹田駅のビン牛乳、どこかで見たことがあるなと思ったら、大分駅の駅舎に掲げられた広告看板でした。
次の上り列車が出る時間が近づいてきたので、ホームに出ることに。
改札を入ると赤いキハは上の方に見えます。ホームと駅舎の間の崖の法面には形よく刈り込まれた植木が植えられています。季節ごとに咲く花々が、赤いキハを彩ってくれるのでしょうか。
ホームの上屋です。木製の大きな上屋は、がっちりとした感じで安心感があります。赤いキハと板張りの大きな屋根、なんとなくかわいらしいなと思うのでした。
上屋の柱に設置された駅名標はホーロー引きです。これまで見てきた日豊本線の駅名標の力強い字体に比べると、細身で弱々しく、女性的な感じがします。
別の柱には、こんなふうに岡城の模型が設置されています。滝廉太郎の荒城の月を大切にする気持ちが伝わってくるようです。
豊後竹田駅の接近メロディー(列車がホームに到着するときに流されるメロディー)には荒城の月が使われています。音楽の特性上、なんとなく物悲しくなったりもしますが、それもまた特色ということでよいのかも知れません。
2時間44分というたっぷりの待ち時間、下準備のないのはいつものこと。しかし、この豊後竹田駅はちょっと後悔。昔ながらの武家屋敷など、ゆっくりと時間をとって巡ってみたいと思う見所がたくさんあるのです。
中でも、久住、阿蘇山系の伏流水から生まれる豊な水は清らかで、その流れに架かる石橋はどれも美しく趣があります。
もしもこの次があるならば是非に、と思いつつ、今は観光案内所でもらったパンフレットで心を満たすことにします。
2008年8月27日(水)