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昨年の九州旅行の感動を胸に、今年の夏旅も九州にしようと決めていました。東京口からの九州寝台特急も、来春には引退が決まっていることだし、この夏旅で乗り収めにしようかなと、今年も移動手段は寝台特急を考えました。
自宅を出るとき見上げた空はどんよりと曇り、今にも泣き出しそうでした。18時3分の時間に合わせ、30分前には東京駅に到着して用意万端。しかし、そのときすでに、少し西の小田原−熱海間は、集中豪雨にやられていたのです。九州行きの寝台特急の発車時刻は18時3分。なのにその下の快速アクティー小田原行きの発車時刻は21時48分、この不思議はそういうわけでした。
昨年ははやぶさ号で熊本を目指した(実際には鳥栖駅で下車でしたが)ので、今年は富士号で大分を目指すことにしました(実際には小倉で下車予定ですが)。
小田原−熱海間が不通の状態の東海道線、方向幕を雨に濡らした富士号が東京駅に到着したのは、発車時刻から約2時間後の20時過ぎでした。
さすがに若干の疲れを感じながら、それでも乗ってしまえばなんとかなるね、そんな思いでB寝台ソロのロゴマークのある扉から列車に乗り込みました。
普通の状態じゃないから、すぐには動き出さないだろうと覚悟を決め、まずは個室寝台で一息。2時間もホームで待たされた疲れも少しずつ解けてゆきました。まだ列車は動かないけれど、さすがにおなかもすいたので、お弁当を食べることに。始発駅に停車中の車中で食べるお弁当は、車窓を眺めながらのんびりと、という旅とイメージとはかなり違うものの、それはそれで楽しい思い出に。
しかし、列車はなかなか動き出しません。どれだけ遅れても到着さえすれば後は何とかなるもんね、そんな軽い気持ちの私は、ま、いいか、と本を読んだりしながらゆっくりと待ちます。
そんな中で聞こえてきた下関車掌区の車掌さんの「この列車は何時になろうとも必ず出発します」というアナウンスが妙にのんびりしていて笑ってしまいました。ホームでは「小田原−熱海間不通のため、全ての東海道線は小田原で折り返し運転をしています」といっているのに、どうするつもりなんだろうと思いつつ、それもまた楽しみの材料に。
本当ならムーンライトながらが出発する23時半頃、向かいの9番線には長野行きの方向幕をつけたこんな列車が入線してきました。既に運休を決めているサンライズ号、ムーンライトながら号に乗車予定だった人のための、宿泊用列車だそうです。JRの職員の「列車ホテルです」というアナウンスにも、なんとも言えない安らぎを感じたりして。
日付が変わった24時過ぎ、いよいよ列車は東京駅を出発するとアナウンスが入りました。雨も小康状態となり、動き出した列車は順調に加速して行きます。しかし、新橋駅を過ぎたころ少しずつ徐行運転となり、停まるはずのない品川駅で完全に停まってしましました。下関車掌区の車掌さんのアナウンスは、「品川駅で4時まで停車します」と言っています。
確かに「何時になろうとも必ず出発します」の約束は果たしたね、と思いつつ、その後のことに考えをめぐらせながら、なるようになるかねと思い、ベッドへ。
何時間かの浅い眠りの後、洗面所に立ったついでに車掌室を覗いてみました。品川駅を6時に出る新幹線のぞみ号に乗り換えも視野に入れ、状況を聞いてみようと思ったのです。車掌室には2人の車掌さん。新幹線への振り替えはできないかと聞いてみると、「情報を下ろしてくれないので状況がわからない。振り替え要請も出しているけれどなかなか許可が出ない」と困りきった様子に責める気にもなれません。状況がわかり次第お知らせするからという言葉を聞いて、もうしばらく寝台で待機することに。
品川駅発の1番列車ののぞみ99号が出発する6時少し前、新幹線への振り替えの許可が下りたとアナウンスが入りました。普段ならまだ夢の中の時間、楽しみにしていた富士号を降り、振り替え乗車の手続きをして新幹線ホームへ。
昨夜の集中豪雨の影響は新幹線も例外ではなく、ダイヤは乱れているというアナウンスが流れる中、なんとかのぞみ99号の自由席に乗車し、座席も確保することができました。N700系のぞみ号は、若干の徐行もありながらも快調に飛ばし、約5時間後には九州・小倉駅へ到着しました。
5時間座りっぱなしの腰を伸ばし、ふと見上げた先には、小倉駅の駅名標。JR西日本管内の新幹線の小倉駅の駅名標は、JR西日本のコーポレートカラーのブルーです。
ホームでN700系ののぞみ新幹線を見送り、ゆっくりと歩きながら見上げた行き先表示板のアナログ時計は、11時を指していました。
予定ではすぐに在来線に乗り換えて、その日の旅が始まるはずでしたが、改札で、新幹線への振り替えによる精算をした後、とりあえず外に出てみることにしました。小倉駅北口の駅名板はすがすがしい水色です。
楽しみにしていた富士号の旅は、思いがけずの列車ホテル体験となりました。最後のチャンスを逃したことは残念であるけれど、それはそれで愉快な経験だったかなと思います。
走る車両はJR九州、乗客の対応にあたる車掌はJR西日本、障害が出ている線路を管理するのはJR東日本、振り替え輸送を依頼している新幹線はJR東海。ひとつの国の鉄道網をいくつもの会社で分断している弊害が少なからずあるのかなと思えた経験でした。文句をいいつつも眠っていればいい乗客とは違って、現場で働く職員はそれはそれは大変なこと、と改めて頭が下がりました。
それにしても15時間かかる寝台特急に比べてたったの5時間の新幹線、その速さには脱帽です。なんだかんだ言っても新幹線はすごい、改めて思ったことでした。
2008年8月24日(日)〜26日(月)