夏旅の出発は夜行列車で、それが恒例になっています。
昨年の、これで最後の富士・はやぶさ号、行きも帰りも大雨のための運休への無念を、今年は寝台特急北陸号で晴らします。
ゆっくりと準備を整え、上野駅に到着したのは出発の1時間ほど前。23時3分発の北陸号、行き先表示板に「寝台特急」の赤い文字が浮かび上がりました。
夜行列車の指定席は、地平ホーム(下のホーム)の一番端っこ、13番線です。
かつて、上野駅が北国からのターミナル駅だった頃、ホームと垂直に並んだ改札口の上には、出発時刻と行き先、列車の種別や発車番線が書かれた縦長の鉄板がずらりと並んでいました。次々に列車が入り、出発していく度に、駅員さんが1枚1枚架け替えて行く姿を、なんとなく眺めていたりしたものでした。
今ではそれも自動で動く電光掲示板に替り、頭の上の鉄板はホームに平行にぶらさがって、乗車口案内のプラスティックのプレートとなりました。
ホームの行き先表示にも、「寝台特急 8両 23:03 金沢」と表示が入りました。ホームの行き先表示には「北陸号」の表示は入らないのねぇ、とちょっと残念だったりもしました。
出発時刻の10分ほど前、北陸号が大宮方面から入線してきました。
東京駅と同じように電気機関車に牽引されて入線するする姿を思い浮かべていたのですが、青い客車はバックでゆっくりと登場しました。行き止まりの終着駅、上野駅ならではの入線でしょうか。
最後尾に乗った職員の方に見守られ、列車は定位置に停まりました。
上野駅から北陸号を牽引するのは、青いボディーのEF64形の電気機関車です。
北陸号のヘッドマークです。
青い海と切り立った崖に打ち寄せる白い波は、日本海のイメージでしょうか。
方向幕は白幕で、ブルーの文字で「金沢行き」と刻まれています。
今回の旅も、B寝台ソロを確保。4号車、このプレートの入口から乗り込みます。
指定券の番号と、ドアに刻まれた番号とを見比べながら、指定の寝台へ。
ドアの前で出合った車掌さんに「カードはいりますか?」と尋ねられました。乗り込んでまだ一息もついていない状態で、わけのわからない状態でしたので、「何に使うのですか」と尋ねると「席を離れるときに外から鍵を掛けられるカードです」とおっしゃいます。「それではください」とお願いしたつもりでしたが、うまく伝わらなかったようで、車掌さんはそのまま行ってしまいました。
東京駅からの富士はやぶさ号は、寝具の下に置かれていたし、熊本から乗ったはやぶさ号は、車掌さんが検札のときに直接渡してくださいました。
列車によって、また担当の会社によって、やりかたもいろいろだなぁと、面白くおもったことでした。
車掌さんが検札にきたらカードキーをもらおう、そう思って待っていたのですが、そのうち客扱い停止に。レールのジョイント音、トンネルや鉄橋を通過する音、そして機関車の付け替えの音などを枕の下に聞きながら、いつのまにか朝になりました。
寝台特急のカードキー、今では北斗星とこの北陸号との二つだけで、実はとても貴重なものだったとあとから知って、とっても残念な思い。
写真は金沢近くの田園風景です。雨もなんとか上がって、青空が見え始めた朝でした。
早朝6時26分、北陸号は定刻どおり、終点の金沢駅に滑り込みました。
先頭の機関車は、直流のEF69から交直両用の赤いボディーのEF81に変わっていました。機関車の付け替えはたしか長岡駅。夜中にひときわ大きく響いたあの音と振動が、付け替えの瞬間だったでしょうか。
電気機関車は色が変わるだけで雰囲気も随分違う、ほんの何時間前かの上野駅での青いボディーを思い浮かべながら、そんなことを思います。
赤いボディーに掲げられた北陸号のヘッドマークです。
海の色が気持ち薄く感じるのは、夜と朝の光の加減でしょうか。
乗客を降ろし、しばしの休息をする北陸号を、ゆっくりと眺めながら後部へ歩いて行きます。
青い客車の先頭にも、同じデザインのトレインマークがついています。
北陸号を見送り、ふとお隣のホームに視線を向けると、そこには急行能登号が停まっていました。
489系のボンネット車は、上野駅を北陸号より30分も後に出発するのに、しかも急行列車なのに、金沢駅に到着するのはわずか3分の後。やはり電気機関車は電車にはかなわないということでしょうか。
丸いお顔のボンネット車は、あちこちに錆が浮いて、ちょっと疲れた感じが漂っていました。
金沢駅の朝6時半。駅はとうに動き始め、普通列車も出発を待ってホームに佇んでいます。
白いボディーに水色のラインを持つ455系電車は、大きな目玉がくりくりしていてかわいらしい感じです。
大きな目玉の電車が出た後には、平べったいお顔のこんな電車。もともとは寝台特急用の電車の中間車の改造車で、独特なお顔が食パンのような形であることから、「食パン電車」と呼ばれ、ファンに親しまれているのだとか。
日本海側の大動脈である北陸本線には、まだまだ古い国鉄車両が健在です。
上野駅の出発から7時間半。高崎線、上越線、信越本線、北陸本線、4つの路線を経由して、北陸号は加賀百万石の金沢駅に到着しました。
信越本線、柏崎からは、ずっと日本海の沿岸を走る列車です。車窓からは、明け方の海が見えたでしょうか。冬になれば屈指の豪雪地帯となって、運行を支える人々の苦労も生半可ではないのでしょう。
真夜中に険しい山を越えて日本列島を横断する青い列車は、技術の粋を集めた北陸新幹線の登場と共に、姿を消す運命でしょうか。
朝の明るい日差しの中、金沢駅を出てみました。駅舎の前に鎮座するのは、鼓門(つづみもん)といわれる門で、伝統芸能の鼓をあしらった形なのだそうです。
2009年8月2日(日)〜3日(月)