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すっかり秋も深まった11月のある日、わけあって水戸線に乗ろうと思います。
前回の吾妻線の旅同様に乗った湘南新宿ラインは、大宮駅で高崎線と分岐して、東北本線(宇都宮線)の小山駅に向かいました。
新幹線も停車する小山駅は、栃木県南部の中心都市らしく、駅舎も立派なものです。
白い壁にブルーの駅名がとてもさわやかな感じがします。
湘南新宿ラインを降りると、二つ向こうのホームに今日の目的の列車が停まっているのが見えました。しかし、タッチの差で列車は出てしまい、次の列車を待つことになりました。
水戸線は、東北本線の小山駅(栃木県)と、常磐線の友部駅(茨城県)を結ぶ単線の路線です。約50キロ、16駅を、約1時間で結びます。明治22年の開業当時は小山駅と水戸駅を結び、茨城県の県庁所在地である水戸に敷かれた最初の鉄道でした。しかし、何度かの合併や国有化の中で、友部駅を終点とするようになりました。今でこそ1時間に1,2本のローカル路線ですが、かつての花形路線だった面影を、路線名に僅かに残しています。
約1時間後、ホームに入ってきたのはステンレスにブルーの帯を巻いた、415系1000番台のこの列車です。
列車に乗ってから、どこで降りようかなと考えます。小山駅を出ると、小田林(おたばやし) → 結城(ゆうき) → 東結城(ひがしゆうき) → 川島(かわしま) → 玉戸(たまど) と乗って、6つ目の下館(しもだて)駅で降りることにしました。
改札を出て、駅舎を外から眺めてみます。駅前は整備されていて、そこそこに賑やかさをみせています。昭和12年にできた駅舎は、白い壁がとてもすっきりした印象を受けます。吹き抜けになったコンコースにあるドーム型の窓は、ステンドグラスになっていて、なんとなく気品が漂います。
時は11月。駅前の木もすっかり紅葉しています。
友部側にある連絡通路の跨線橋を渡って、反対側に行って見ます。
ホーム側から駅舎を見ると、こんな風になっています。黒いスレートの寄棟造りの屋根に、白い壁がすっきりと見えます。正面とは反対側のこちら側も、ドーム型の窓が並び、ステンドグラスがはめ込まれています。コンコースから見上げるとなかなか美しいものです。
黒い屋根の向こう側に見えるポップなピンクのビルも、ご愛嬌というところでしょうか。
水戸線の列車からホームに降りると、お隣、ホームの端っこ1番線に、こんな賑々しいカラーの列車が停まっていました。
これは下館駅から陶芸で有名な益子を通って茂木駅まで延びる、第三セクターの真岡鐵道の列車です。真岡鐵道はSLが走る路線としても有名です。土・休日に1日1往復走るのですが、この日はもう既に出発した後でした。
この列車はモオカ14形とよばれている気動車です。
左に向けていた視線を右に向けると、6線ある線路の端っこに、これまた見慣れない列車が見えました。5,6番線に停まるのは、関東鉄道・常総線です。
下館 ←→ 取手 を走る常総線は、下館駅から途中、水海道(みなかいどう)駅までは単線のローカル線ですが、それを越えて取手駅までは複線化されています。ラッシュ時には7分間隔で走り、重要な通勤路線となるのですが、決して電化されることのない路線です。それは沿線近く、柿岡にある地磁気観測所による制約があるからだそうです。
研究都市、つくばらしい事情を乗せて、黒い煙を吐きながら、キハはゴトゴトと発車して行きました。
下館駅を出た後、新治(にいはり) → 大和(やまと) → 岩瀬(いわせ)と乗って、4つ目の羽黒駅で降りることにします。
緑色の瓦屋根がコンパクトな駅舎に映えます。羽黒駅は開業当時は貨物駅として出発しました。それがいつしか客扱いの駅となったわけですが、駅前の広場がやけに広々としているのは、その名残なのでしょうか。
ホームは島式の1面2線です。
ホームから駅舎を眺めてみると、こんな風です。島式ホームから離れた駅舎に行くために、跨線橋を通ります。改札上の白いホーロー引きの駅名標が、ちょっといい感じです。
羽黒駅を出て少し線路沿いを歩いてみることにしました。
線路はたんぼの中を走っていますが、地面よりも一段高くなっているため、そこを歩きながら走る列車を捕らえるのは難しいだろうなと考えながら、歩いて行きました。しかし、羽黒駅から約30分ほど歩くと、やっと同じ目線の踏切にぶつかることができました。
さっき乗ってきた友部行きと、どこかですれ違った小山行きがそろそろ来る頃かもしれない、そう思ってここで待つことにしました。
やがて、友部方面から列車が走ってくる気配がして、カメラを構えました。友部方面からやってきたのは、小山駅、下館駅で乗ったステンレス製の415系1500番台でした。
この瞬間、実はがっかりした瞬間でもありました。
さっき見送った小山行きは、羽黒駅で友部行きとすれ違うはず、そう読んでもうしばらく踏切傍で待つことにしました。
やがて、小山方面から列車の走る音が聞こえてきたので、そちらの方向に眼を向けます。はるかかなたに見えるその姿は、待ちに待った「白いボディーに青いライン」でした。
みかん電車のやんちゃなオレンジ色とはちがって、白い顔にまるいライトがレディーのようにスマートです。
ひたすら待ち続けた白い列車は、あっという間に近づいてきて、踏切を渡って行きました。
紅葉にはまだ少し早い緑の山肌と、五月晴れを思わせるような青い空、稲刈りの済んだ土色のたんぼ、そんな中を白いボディーに青いラインの415系列車は、スマートに駆け抜けて行きました。
列車はあっというまに小さくなって、名残惜しく後追い撮影をします。
今日、水戸線を訪れた「わけ」。それがこの「白いボディに青いライン」のスマートな姿に会うことでした。
そんなわけで、夕暮れ近くの最後の最後に、念願を叶えることができたのです。
目的を達成して、満たされた気持ちでもうひと歩き。次の駅、福原駅に向かいます。気が付けば羽黒駅から1時間半、ゆっくりだけれど歩き続けたことになります。
電車に乗ったらたったの5分。こんなのたいしたことないよね、そう思って歩き始めたのですが、さすがに気動車と違って電車の5分は長いのでした。
いささか疲れが見え始めた頃、福原駅が見えてきました。
小さな木造駅舎の福原駅では、委託の職員と思われる方が一生懸命働いておられました。駅舎の向こう側に見える、レンガ造りの建物は、危険物を格納するランプ小屋のようです。
対向式ホーム2面2線の福原駅でしばらく列車を待ったあと、やってきた友部行きの列車に乗りました。福原駅を出て、稲田(いなだ)を通過し、その次の笠間(かさま)駅で降りました。
近くには食物の神様、農業の神様として崇敬される、笠間神社があります。また、笠間焼きとして、陶芸もさかんなため、観光客も多く、駅前はきれいに整備されています。
神社を思わせる駅舎は、屋根が高くて立派な木造建築です。寄棟の屋根の下に並ぶのは窓なのか飾りなのかわかりませんが、よいアクセントになっています。この日は菊祭りが行われていたようで、その展示物が三角のファサードを覆い隠してしまったのが、残念といえば残念でした。
夕日が落ちかけた笠間駅を後にして、友部行きの列車に乗りました。その次の宍戸(ししど)駅を通過して終点の友部駅に着きました。ここで一旦降りて常磐線に乗り換えます。
ここでやっと、今日の目的、貴婦人のような白いボディーに青いラインの415系列車に乗る事ができました。社内はロングシートで、風情もなにもないけれど、景色を見るにはもう暗かったし、何よりも疲れがピークに達していたので、シートの座り心地だけで満足しました。
列車はやがて上野駅の低いホームに到着し、宇都宮線だか高崎線だかの上野停まりの列車と並びました。
湘南電車の113系に対して、この車両は415系。上1桁が1は直流、4は交・直両用、と、大きな違いがあるらしいのですが、実は詳しいことはよくわかりません。ただ、さわやかでスマートなこのカラーリングに惹かれての、水戸線の旅でした。
2005年11月5日(土)