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毎年、秋の鉄道の日に向けて、JRでは「鉄道の日記念切符」が発売されます。この切符を利用して、ぶらっと日帰りの旅に出ようと思います。
夏休みには北関東へ行ったので、今度は南へ行ってみようと思い、伊豆半島に的を絞りました。どこまで行かれるかと路線図を見ると、伊豆半島は意外と鉄道が少なく、JRは伊東線しかないことが判明。なんだ、ここしかないのね、とちょっぴり落胆しながら、伊豆半島を走る伊東線に出かけて見ます。
ホームで下り電車を待っていると、反対側に上り東京行きのみかん電車がやってきました。
東京方面から約2時間、東海道線は熱海駅に到着しました。古くからの温泉街である熱海駅は、新幹線も停車する駅ですが、その割には駅舎はこじんまりとしています。
三角屋根のファサードに掲げられたまるい時計が、懐かしい感じを与えます。駅前はさすがに国内有数の温泉街の玄関口だけあって、黒塗りのタクシーがお客さんを待って並んでいます。
しばらく駅前をぶらぶらしたあと、伊東線に乗るためにホームに戻ってきました。
JRの伊東線、当然東京駅から出る伊東行きと同じみかん電車だよね、とホームを探しますが、それらしき姿は見つかりません。代わりに停車していたのが「Izukyu」のロゴが入ったこの車両。思わず傍にいた駅員さんに「これは伊東線ですか?」と確認しました。駅員さんの「そうです」という返事を聞いて、伊豆急行が伊東線に乗り入れているのだなと理解しました。
しかし、よく見るとこの車両、カラーは伊豆急ですが、もともとはJRの113系、つまりはみかん電車だったのです。
隣のホームには、浜松行きのみかん電車が停車していました。
ここ、熱海駅はJR東日本の終着駅。これより西はJR東海の管轄になります。そのため、東京口から出る東海道線のほとんどは、ここで折り返しとなり、それよりも西を目指す人々は乗換となるのです。
隣に見える東京口のE231の帯の色を窓に映して、浜松行きのみかん電車は発車の準備を整えていました。
カラーリングは替わっても、内装はほぼみかん電車、そんな列車に揺られて、伊東線の終点、伊東駅を目指します。
熱海まで、進行方向左側の眼下に見えていた海は、熱海を出るとトンネルに入り、一瞬姿を消しますが、やがてまた姿をあらわします。こうして穏やかな相模湾の海を見ながら列車は15キロ強を25分かけて走ります。
伊東線の終着駅、伊東駅は、南欧風のちょっと大きめな木造駅舎でした。
ちょっと季節はずれだけれど、海を見に行こうと思います。
列車の窓から見えていた海を目指して、商店街をまっすぐに歩いて行きます。商店街を抜けるとT字路にぶつかり、道路の向こう側に海が広がっている気配を感じます。さすがに海が近くなると磯の香りがしてくるなとあたりを見回すと、角のお店の前にこんな光景が広がっていました。
太陽の光をたっぷりと浴びた鯵たちは、おいしい「あじの開き」になっていました。
目の前の車道を横切り、階段を下りると、そこには海が広がっています。夏のように日差しが強く、海は真青に輝いているけれど、砂浜に人影はなく、ちょっぴり寂しい秋の海でした。
青い海のはるか向こう、小さなでっぱりは、伊豆七島のひとつ初島です。
伊東の浜でしばらく海を眺めたあと、また駅に戻って列車に乗り込みます。伊東駅からひとつずつ、熱海に向かって戻って行こうと思います。
伊東から一つ目は、宇佐美駅です。
シーズンオフのこの季節、駅前は閑散としていますが、どうどうとした正面のファサードには、観光客を暖かく招き入れる力があるように思います。
窓にはまった白い斜めの格子の飾りには、伊東駅同様の南欧風の趣があります。
駅の程近くに、海水浴場があるのでしょうか。駅には夏の名残の看板が掲げられています。また少し歩いて、海岸まで行ってみようと思います。
伊東の海と比べるとほんの少し波も高く、サーファーの姿も見えます。しかし、それでも波は穏やかです。穏やかな波間を、白い船が滑るように走って行くのが見えます。
宇佐美駅からまたひとつ列車に乗って、次の網代(あじろ)駅で降ります。
そこには宇佐美駅を少し小さくしたような、こじんまりとした駅舎があります。ファサードの下の駅名標の下の格子模様が、しゃれた感じです。また、自動販売機等に隠れてしまっていますが、入口の両脇の窓には、宇佐美駅と同じように白い格子模様の飾りがはめられています。正面の付け庇を支える柱には、鉄平石で覆われた立派な土台が付いています。
「網代」という名前からして、リゾート地であると同時に漁師の町でもあることがうかがえます。網代港から水揚げされる新鮮な魚介類を扱う市場もあり、温泉、海水浴と同時においしい料理が味わえます。
網代駅からまたひとつ列車に乗り、次の伊豆高原駅で降ります。
駅舎は宇佐美、網代とよく似た、三角のファサードを持つ建物です。改札を出て正面の出口を外に出ると、目の前の視界がぱっと開けます。伊豆高原駅は、地平から階段を何段も上がった小高い丘の上にあるのです。
階段を下りると、そこは既に小高い丘の上で、そこから眺めるとはるか下の方に青い海が見えます。駅は民家の屋根よりも高く、電線すら下に見えます。
ここ、伊豆高原駅は、宇佐美や網代と似たような駅舎ですが、まわりの雰囲気は少し違っていて、リゾート地というよりは閑静な住宅街の趣を見せています。
伊豆高原駅からまたひとつ列車に乗って、来宮(きのみや)駅で降ります。来宮の次はもう熱海というだけあって、駅前は車の量も多い大きなとおりになっています。これまでの駅舎とはちょっとちがって、切妻屋根の妻側が玄関になっていて、駅前の大通りとは直角の位置に出入り口があります。
形は大きく違っていますが、三角屋根の下の駅名標の下の格子の飾り、赤い瓦屋根、白い壁、これらは共通のようです。
お隣熱海駅から発車した東海道線と伊東線は、ここ、来宮まで並行に走ります。この先から東海道線は大きく曲がって西へ、伊東線はまっすぐ南下して伊豆半島の中腹を目指すのです。
ホームの隣を東海道線の211系列車、豊橋行きが通過して行きました。
来宮駅からまたひとつ列車に乗って、熱海駅に帰ってきました。熱海駅にはこれから伊豆急下田を目指す踊り子号と東京に戻るスーパービュー踊り子号が仲良く並んでいました。
伊東線には、こんな優等列車がばんばん行き交っていました。しかし、私たちが普段乗る事のできる普通列車はJR側にはなく、ほとんどは伊豆急の車両でした。特急列車はJRが担い、普通列車は私鉄が担う、そんなふうに住み分けができているのかなと思いました。
古き佳き温泉街を走る伊東線は、1935(昭和10)年に開業しています。高級リゾート地を意識し、開業当時から南欧風の建物で全駅舎を統一し、駅舎で路線をコーディネートしているかのようです。そこには全国有数の温泉街の誇りと気品を感じることができます。
2005年10月2日(日)