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9月に入って遅れて取った夏休み。日光へ行こうと思います。
旅立ちは上野駅、地平ホームです。
明るい地上のホームから階段を下り、真ん中に太い柱が並ぶ通路を歩いて、薄暗い地平ホームに出ます。
昔、両親に連れられて北関東の田舎に行ったときと変わりなく、「低いホーム」はありました。
あの頃、ホーム端っこの改札の上に貼られた針金にぶら下げられていた行き先表示板は、今はホームの中ほどにあります。
北関東を目指す東北本線(宇都宮線)、高崎線は、地上のホームと地平ホームの2箇所から出発します。地上のホームを「高いホーム」、地平ホームを「低いホーム」と読んで区別しています。
今日は「低いホーム」から出る宇都宮線に乗る事にします。
外からなにやら問いかける乗客に、乗務員の方が丁寧に案内をする姿が見られます。
最新型の中距離通勤列車、E231系列車に揺られて約2時間弱、列車は終点に宇都宮駅に到着しました。
3面5線の大きなホームの向こう側には、広い車両基地が広がります。
その一角に、こんな列車が静かに佇んでいました。
北関東で活躍する通勤型107系列車、これがこれから乗る日光線の車両です。
白いボディにグリーンのおおきなラインは、日光線の頭文字、「N」を表すのかな、そんなふうに思いました。
宇都宮を出ると、鶴田 → 鹿沼 → 文挟(ふばさみ) → 下野大沢 → 今市 → 日光 と進んでゆきます。約40キロの道のりを、約40分で走ります。
車窓からは、黄金色に染まり始めた稲穂の波が見えます。
比較的大きな都市の鹿沼、今市の周辺は住宅も多いけれど、それ以外はほとんどこんな風に田園風景が広がっています。
途中駅、下野大沢(しもつけおおさわ)駅で途中下車することにしました。
ホームに下りると、修学旅行の子どもたちを運んだのでしょうか。こんな列車が通過して行きました。
JR日光線は、日光への参詣客輸送を目的に明治時代に作られた路線です。今でこそ、たんぼに囲まれたローカル路線ですが、かつてはお召し列車を含む優等列車が走る由緒ある路線でした。
せっかくなので改札を出てみることにしました。
駅前はロータリーになっていて、そこそこ整備されているようですが、駅舎自体は面白みのないもののようです。
再びホームに戻り、次の日光行きを待つことにしました。
1時間後にやってきた107系列車に乗って、終点、日光駅を目指します。
下野大沢駅から約15分、終点の日光駅に到着しました。
列車から降りたホームは、後ろ側を深い緑に覆われ、その中の白い駅名標がひときわ映えます。
おそらく今はもう使われてはいないだろう水飲み場にも、いにしえの雰囲気が漂っています。
国際的な観光地の玄関口にあたる日光駅は、こんなふうに立派な白亜の洋館です。
九州・門司港駅を一回り小さくしたような、ネオルネサンス様式で、ハーフテンバーと白い壁が絶妙なコントラストをみせる、気品高い駅舎です。
1912(大正元)年に建てられたこの駅舎には、皇族をはじめ、各国の要人たちも多く訪れたため、立派な貴賓室も備えていました。
駅舎を少し斜めから見てみました。
ドーマー窓、ハーフテンバー、格子状の窓とその周辺の飾り。そして手入れの行き届いた植え込み。どれをとっても気品と、それを守る人々の深い愛情を感じます。
駅舎構内、改札を出て正面左側に、2階に続く階段があります。木製の、磨きこまれた手すりを持つこの階段の先には、かつての貴賓室があります。
現在では駅ギャラリーとして、一般に公開しています。
JR日光駅を出て、右側にしばらく歩くと、東武線の日光駅が姿を現します。
JRの日光駅の気品ある駅舎とは打って変わって、カジュアルな山小屋風の姿が親しみを覚える駅舎です。
JR日光線に比べて運賃も安く、足回りもいいことから乗客はこちらの方が断然多く、それゆえに駅前にも観光地としての活気があります。
駅舎の外側からそっと中を覗いてみました。
ホームには下今市行きと新栃木行きの2両の列車が発車を待って準備中でした。
快速、普通電車などとして使用される、東武6050系車両です。
日光駅に到着したのは3時前。少し早いけれど、とりあえずチェックインしようかな、と宿を目指すことにしました。
JR日光駅から神橋(しんきょう)、旧田母沢(たもざわ)御用邸などを見ながらタクシーで約10分。やがて右手にシックな英国風の建物「小さなホテル 森のうた」が見えてきました。玄関の前で植物の手入れをしていたオーナーに挨拶をし、チェックインを済ませました。
部屋に入り、しばらくぼぉっとしていたけれど、外はまだ明るいし、なんだかもったいないな、と散歩に出ることにしました。
「散歩してきます」とオーナーに声をかけると、オーナーの取っておきの散歩道を教えてくれました。前の通りを渡って、そこから直組に出た細い道を下って行くと、かすかに水音が聞こえ、やがて森の中に小さな広場が広がります。そこに建てられた案内板には「大日堂(だいにちどう)跡」と書いてありました。
広場の先には沢が流れ、涼しい風が吹いてきます。急な流れのこの川は、大谷川です。
9月の下旬。都会はまだまだ残暑厳しい頃。しかし、ここ日光はもうすっかり秋の気配です。
見上げればそこここに赤とんぼが行き交い、冬支度に勤しんでいるようです。
ホテルに帰り、ゆっくりと温泉につかり、ベッドに入って一日の疲れをすっかり癒した次の朝。
少し早めにチェックアウトしようとフロントに下ります。朝食準備中のオーナーがやってきて、素泊まりプランで朝食のない私に「今コーヒーを落としたから飲んでいったら?」と声をかけてくれました。誰もいないダイニングで、ゆっくりと入れたてのコーヒーを飲みながら、今日の予定などの会話を楽しみ、ホテルを後にしました。
ホテルの外で見上げた空は、今にも泣き出しそうでした。
2005年9月19日(月)