幼い頃、近所を走るローカル電車に揺られて終着駅に到着すると、そこにはみかん色の電車がいた。マッチ箱のような小さな電車から降り立ったとき見える電車は、大きくて、長くて、かっこよかった。あれに乗れば、どこへでも行かれる、そんなふうに思ったものだ。
夏休みや冬休み、田舎のおばあちゃんちに行くとき、家族でみかん色の電車に乗った。お弁当とお茶、それと冷凍みかん。それらを持って、四人がけのボックスシートに座る。腹ごしらえが済んで人心地つくと、窓際の小さなテーブルを台にして、トランプ大会が始まったりした。

1950年、東京〜沼津、伊東間に、オレンジと緑のツートンカラーの80系列車が誕生した。それまでのチョコレート色は一変して、明るく斬新な色に生まれ変わり、湘南地方を走る湘南電車にちなんで、湘南色と呼ばれた。
1962年、80系列車は力を増した111、113系列車にバトンタッチし、40年余り、湘南電車の顔として、走り続けてきた。
オレンジ色と緑色、それは沿線の特産物であるみかんをイメージした色。その色の言われは実はいろいろあるけれど、私はそうだと信じて疑わず、ゆえに「みかん電車」と呼ぶ。

気が付けばあたりまえのようにそこにいたみかん色のみかん電車。駅弁がつきもののの旅客列車は、いつしか沿線の通勤の足となった。40年余りの歳月を、力いっぱいがんばってきたみかん電車は、今日、2006年3月17日、静かに引退する。

みかん電車よ、長い間お疲れ様。私たちにたくさんの夢をありがとう。
 (2006年3月17日・記)